“Nobody has any impeccability in this world.”(世の中に無欠の者は存在しない)、・・・即ち、これは、「どのように優れた才能・能力を備えている人でも、”impeccable”(無欠)、あるいは、”perfect”(完璧)に事を進めることは不可能である」ということを意味する言葉です。名詞の”impeccability”は、「無欠」を意味する語であり、英米の「教養人」(cultured and learned person)が使う語の一つです。
人間が”人間”である以上、所謂”impeccable person”(無欠な存在者)になることは不可能ですが、それでも我々人間は、文化・芸術・学問等において、自分自身を磨き抜き、常に、「より上位の境地」を希求する日々を送っています。
当・英会話道場イングリッシュヒルズにおいては、すべての受講生の皆さんが「英語におけるエレガンスを追究する」という目的を持ち、毎日、学習に学習を重ねる日々を送っています。本稿では、エレガンスについて、日本文化において極めて重要な役割を担う「茶道」を手がかりに、「人間コミュニケーションの真髄」(the quintessence of human communication)について述べていきます。
茶道は、茶室での茶の入れ方・飲み方における伝統的な作法を指すものであり、一般に「茶の湯」と呼ばれています。茶道は、室町時代に村田珠光(1423-1502)を祖として始まったものであり、後の安土桃山時代において、幼少時代から茶の湯の名人・竹野紹鴎(1502-1555)の下で侘茶を学んだ豪商・千利休(1522-1591)が完成させた作法です。
千利休は、茶道において、仏教の「禅の精神」を取り入れ、「侘」(subtle taste)・「寂」(elegant simplicity)の概念、「一期一会」(in a lifetime there is but one encounter)の心得を基盤として完成させ、織田信長、及び、豊臣秀吉の茶頭(tea master)を務めると共に、日本の精神文化に多大な影響を与えた人物です(It is said “subtle taste” and “elegant simplicity” are the highest aesthetic values here in Japan.)。
茶道の心得である「一期一会」は、「一生にたった一度の出会い」という意味がそこに内在しています。この心得は、亭主が茶室で客を迎えるときには、その一時を「『人生最高の一時』(the utmost moment in life)として、心を込めて丁寧に客をもてなす」という意味を成すものです。
「一期一会」は、千利休の高弟である山上宗二(1544-1590)が著した『山上宗二記』に記されている千利休の言葉、「一期に一度」に由来する言葉として知られています。
「一期」は「一生」の意味であり、「茶会は、同じ時間的空間を二度と経験することのできない『一生に一度の出会いである』」という亭主と客の心の持ち方について”優美に”表現しています。現在の一期一会という言葉は、江戸時代後期において、井伊直弼が著書 『茶湯一会集』において「一期一会」と表現したことに由来するものです。
茶会を開くとき、客を迎える主人は、床の間(alcove)の掛け軸(a hanging scroll)、花(flowers)、茶碗(teacups)など、客人をもてなすための道具をたっぷりと時間をかけて丁寧に準備します。
通常、「茶道を究めたいと切望する者」(those who enthusiastically wish to pursue the Japanese tea ceremony)は、茶器の扱い方について「厳粛な心構え」(rigid attitude)を持って頗る丁寧に学ぶことが求められます。そして、茶会においては、茶器や作法ばかりにとらわれるだけでなく、迎える一瞬一瞬において、「気高い心」(magnificent mind)「優雅な心」(graceful mind)を堅持・維持することが求められます。
千利休の時代、即ち、安土桃山時代においては、どんなに高位の武士であっても、茶室に入るときには、外に刀と身分を置き、「厳粛、且つ、平穏な心持」で”質素の限りを尽くした茶室”に入ることが重んじられました。
厳格極まりない茶の湯の精神において、茶室において「茶をいただく者がどんな身分なのか」ということは一切関係ありません。茶室は、”質素極まりない侘・寂の静寂の空間”であり、場を共有する者同士が「心と心で会話する優雅な空間」です。千利休は、この静寂の空間における人と人との交流こそが、真の意味での「気高さ」(magnificence, nobility)、「優雅さ」(gracefulness)を齎すものと捉えたのです。
この「気高さ」「優雅さ」は、まさに、「国際コミュニケーションにおいて威力を発揮する『崇高な心のステージ』(a highly elevated spiritual stage)」であると言えるものです。この教材を執筆した講師の生井利幸自身、世界中でたくさんの教養人、見識者、文化人等と交流を図ってきた経験から明言できることは、英語による国際コミュニケーションにおいても、「『心の豊かさ』(spiritual richness)を備えているかどうか」ということは極めて大きな問題であるということです。
受講生の皆さん、本稿においては、文化比較(cultural comparison)という立ち位置から「茶道の心得」をどのように英語コミュニケーションに役立てることができるか、静寂の中で深い思索を試みてください。
優雅な静寂の雰囲気の中で深遠なる思索を試み、「人間コミュニケーションの真髄」(the quintessence of human communication)について考えるその経験は、英語におけるエレガンスを追究する上で「偉大な一歩」となります。